ジャン・ロンドー チェンバロリサイタル
昨日の休日は、上野の桜も満開でした。日頃の運動不足を解消すべく、大塚から徒歩で移動。1時間強くらいでつきました。5キロくらいでしょうか。
夫がCDを買って以前からとても気に入っていたチェンバリスト「ジャン・ロンドー」が初来日するとのことで、二人でチケットを取って行ってきました。夫は音楽のメインはロックな人なので、こういうグルーヴしていく演奏家が好きです。私もCDを聴いてこれは好みだろうなと。このポスターとかジャケットから、バイオリンの奇才クレーメルみたいな人かなと勝手に想像してたら、舞台に出てきたジャンは、まじめそうな好青年な印象。髪は伸ばして後ろで結んで、りっぱな髭に真っ白なシャツが似合います。
フランス人なので、勝手にフランスものを今日は聴けるのかと思っていたら、なんとバッハのゴールドベルクを弾くということを直前に知り、「え?なんで?フランスもの弾かないの?なんでわざわざバッハ?」とか夫に訴えてたら、「そんなの知らないよ。ゴルトベルクのほうがお客さんが集まると思ったんじゃないの?本人の意志で弾くのかも知らないし。」まあ、そうか。そうですよね。フランス人だってバッハ弾きますよね。ていうか、日本人だって弾くし。フランスの人はすランスものしか弾かないというのは、私の勝手な思い込みでした。
さああ、あの有名なアリアだと思って固唾を飲んで見守っていたら、本人の即興から入りすっとアリアに入っていきます。かっこいい。チェンバロのことは全くわかりませんが、どんどん音色を変えて一つ一つ変奏を弾いていくんですね。音色の変化も面白いし、音色自体もすごく綺麗でした。これは楽器のせいなのか?それとも本人の腕なのか?両方なのか?ピアノと違って音も小さくて、強弱もつかない楽器ですが、これだけ変化があれば十分ですし、あの右手と左手を少しずつずらして弾く時間差とか「間」が絶妙で、音楽が本当によくわかってないとチェンバロは演奏できないんだなあ。私も習ってみようかなとか、思わず思ってしまいました。いや、習いませんけど。
ところどころ、あまりにも滑らかでふと気を失いましたが、まさに過労で眠れなくなったカイザーリンク伯爵に眠ってもらうために、ゴルトベルクが演奏してあげようとして作曲されたこの曲の効果が、絶大ってことですね。なんて贅沢な時間。そして難しい変奏も軽々と演奏してくれました。いいですね。どんなところも、停滞しないで常に前に進んでいきます。バロックはロックだわ。
そして、演奏開始から80分後。あの最初のアリアに戻ってきました。会場一体が、みんなで旅に出てまた故郷に戻ってきたねという感覚。最後の一音を弾き終えて20秒くらい?もっと?ジャン・ロンドーは身じろぎもせず、自分の音の行方に聴き入って、また会場も咳払い一つなくその音を味わってかみしめていました。ジャンがふと緊張を緩めて手をおろしたと同時に、大きな拍手とブラボーが。本当に楽しい時間でした。やっぱりライブはいいな。また行きたいなと思わせるリサイタルでした。
そしてアンコールは、フランスの古い曲を弾きます。日本語はそれほどうまくないので、といいながら流暢な英語で曲を紹介してくれました。また日本にもどってきたいです。みんなが集中して聴いてくれて、自分も集中できたみたいなことを言っていました。コペルって聞こえたので、なんだ?そんな作曲家いるのか?と思って曲聴いたら、クープランでした。(笑)「神秘的なバリケード」とロワイエ作曲 「スキタイ人の行進」スキタイ人は、古楽の楽しみでも、時々流れます。フランスものも、さすがに素敵でした。なんというか、あのとどまらないでわああって流れていく感じがまさにフランスって感じでした。そして、これは次はフランスものを聴かせてもらわないとという気持ちに。
まだ25歳なのに、なんだかもうすべてが出来上がっている感じで、本当に楽しませてもらいました。プログラムにチェンバリストの三和睦子さんがジャン・ロンドーの音楽歴などを書いてくださっていましたが、その中で「天才を生み出すには、必ずその才能を開花させる土壌があります」と書かれていました。フランスを始め多くのヨーロッパの国は政府が学校外の教育に重きをおいていて、学校は午前中に終わり、午後から子どもたちが興味があることを学べるシステムになっているそうです。
ジャン・ロンドーも、チェンバロも、通奏低音、オルガン、ピアノ、ジャズ、即興演奏、哲学、心理学多様なものに興味があって、研究しているプロフィールが書かれていました。フランスって音楽の授業は学校でないって聞いたことがありますが、本当なんですね。優秀な人は専攻楽器だけに人生のすべての時間をかけて練習するという人生のすごし方はしないんだな。そう言えば大好きなピアニストのシフも、ピアノ以外の造詣が深いです。
こうやって、素晴らしい演奏家が世界でどんどんデビューして、聴く側としても楽しみが増えていくのがうれしいです。また是非日本に来てほしいです。